ネタバレもちょっとありますので、これから劇を観る方はお気をつけください。

感想――なんとなくイマイチ。

なんという抽象的、かつ判然としない文言でしょう。「なんとなく」も「イマイチ」も私の率直な印象のうわっつらを告げるだけ、しかもどちらもあやふやな言葉です。

なのでもうちょっと詳しく書いてみますと、えーと今回はドラマティ●クカ●パニーのハ●ピーラ●ドという公演だったんですが(伏字ばっかりですみません)、歌つき演劇(?)みたいな。

ミュージカルと呼ぶまでには、踊りも歌も突出してはいませんが、それらを含んだ明るくてポップな内容でした。

四組の夫婦や恋人に突然赤ちゃんができて、喜んだりはしゃいだり動転したり。そこから始まる、どたばたの十ヶ月間を観ていく、というような流れ。

これねー、初演が10年前だったそうですね。
10年も経てば、特に昨今の世の中ですから、世相も社会の常識もすごく変わっちゃってます。

この時代に生きている私たちはあまり実感できずにいますが、十年前といえば、私は中学生。

携帯電話を一人一台持つ世の中になるなんて、誰も予想していませんでしたよ。
ネットでこんなに色々なものが買えるようになるとも考えていなかった。むしろ問題点ばかりをあげつらっていた記憶があります。

なんつーか細かい、微妙な人々の意識や感覚が、実はすんごくすんごく違っちゃっているのです。

――物事に対する考え方も。

例えば十年前の「熟年離婚」と、いまの「熟年離婚」。田舎ではまだまだですが、大都市部では現代の方が圧倒的に、世間の見る目が柔らかいんじゃないかと思います。

なんで何十年も連れ添って別れるの?って不躾な疑問だけじゃなく、ああ何十年も我慢してきたんだね奥さんは、とか、ドラマにもなったくらいですし、捉えかたの幅が広がったんじゃないかなーと思います。

で、今回の劇では結婚や出産に伴って、「愛情の示し方を模索する」人々がテーマだったわけですが、

これがなー……なんかもうすんごい感覚的なまでに細かいところで、「現在」に合わない感じがしたのですよ。

劇を観ていて、表面上はふつーに観れるし、笑える。決してつまらないわけじゃないのに、どうにもしっくりこない。
これはやっぱり、十年前の世界に合わせて作られた話だからなのかな、と悩んでしまいました。

劇のなかの台詞や、結論に、納得することができなかった。
たぶんそういうことなんだと思います。

一番、「えー…」と思ったのは、なんとほぼ最後のシーン(苦笑)。
若い学生の恋人同士が抱き合ったところでした。

赤ちゃんが出来た頃、女性が「あなたには夢があるんだから、『夫』に納まってほしくない。夢を第一にがんばって!」と、結婚を拒否するのです。
「意味わからん!」とプロポーズを拒絶されて頭を抱える男性に、さらに「子供には父親がもちろん必要よ。あなたは『父親』と『男』をやってほしいの。でも『夫』はいらないわ。同様に、『妻』もなし!」とにっこり笑う女性。

ははー、おもしろいこと言うなーと思いました。
この時点で、「この女性は変わっているけど、しっかり者」という認識が私に植え付けられました。

後に、友人に「結婚はこわい、いやだ」と打ち明けたところをみると、これは婚姻を目の前にすると腰が引ける女性、という例をあらわしたものだったのかもしれませんが(マリッジブルーの親戚みたいなもんか?)。

さて劇では、男性がなんとアイドルとしてブレイクし、ファンに追っかけられるまでになります。仕事が忙しく、次第に家への連絡も滞りがちになり、ほとんど帰ってこなくなる。

でもねー、この女性、恋人からメールが来なくて寂しく思いながらも、ずーっとひとりで頑張るのです。
義母とか友人に支えられ励まされつつ、ひとりできちんと生活して、いわば家を守っていた。

そんで最後、家を顧みなくなっていた恋人が、改心(つか本当に大事な愛に気づいて?)して戻ってきたとき、男性は婚姻届を差し出したのです。

―――したら、どうなったと思います?

この女性ってば、「わたし、信じてた!」と泣いて喜んで男性に抱きついたんですよ!

ぶっちゃけると一瞬、目が点になりました。

男性が戻ってきたのは別にいい。お決まりな展開だが、丸く治めるためにはこれしかないし。

なにもおかしいところないじゃないって人もいるかもしれませんが、
私が疑問を感じたのは、最初「あなたの夢を実現させてほしい」と結婚を突っぱねた女性が、「信じてた!」などと感極まって叫んだことです。

……なにをいつから信じてたの???

婚姻届を出されて↑の台詞ですから、観てたらなんだか「あなたが結婚を申し込んでくれるってわかってた!」みたいに聞こえちゃったんです。私には。

いや、男性が自分のもとへ帰ってくることを信じてたーって意味だったんだろうけど…。でもなー。

なんか安易だなあ。

信じて待ってりゃ報われる、そう言い切れるほどもう純真じゃないし(観てる私が)。裏切られたり、騙されたり奪われたり、そんなことのほうがよっぽど多い。

だから今わたしが信じられるとしたら、この瞬間、自分はできる限り最良の判断を下したと信じる、というだけです。
この「信じる」は、裏切られる危険や痛みがないから、臆病な信かもしれません。

自分を信じることより、他人を信じることのほうが、よっぽど恐いと思います。だから女性が「あなたを信じてた」ならば、すごい勇気のある行動だと賞賛します。

しかしどうにも……態度に一貫性がないというか、私は共感できないというか、理解できずに「???」ばかりが残ってしまったのでした。

私が勝手に考える、彼女の経緯としては、

彼を応援したいから結婚はしない→
彼、アイドルになって家に帰ってこない→
寂しいのにも耐えて頑張って産もう→
彼帰ってくる→
婚姻届→
信じてた、嬉しい!

………やっぱり最後らへんが、ようわからん。

相当つらい思いまでして彼を応援してた彼女です。
彼を『夫』にしたくないから、結婚しないとまで言い切ったひとへですよ、「もういい、もう(アイドルを目指すのは)終わりなにする」なーんて男性が宣言したら――私だったら、あんたの夢ってそんなもんかい!と怒るけどなあ。

その程度の気持ちで私はないがしろにされてたんかい!と、思わずにはいられません。私の苦労をどうしてくれるんだと。
あのとき彼女が、なぜ憤慨しなかったのか不思議です。

まあ逆に、自分の夢を犠牲にしてまで、私と子供のことを一番に考えてくれた!と感激したのかもしれませんが、だったら最初っから素直に結婚しろよって話です。

「一番」に「彼の夢」を置いたのは、誰でもない女性本人なんですから。

この女性、芯の強い、しっかりした人物として描かれてるんですよね。

そういう人間が、半端な気持ちで「あなたは夢を追って!」なんて言うだろうか? 心からそう願っていたからこそ、ひとりで妊娠生活に耐え、男性の帰りを待とうと決めたんじゃないのか。

だとしたら、最後になってひっくり返される「寂しかったから、帰ってきてくれて嬉しい!」という、愚直なまでに女性的な行動と、やっぱり人物像が合わない気がする。

またもし、初めに結婚を拒否した理由が、マリッジブルーもどきで、強がっていたけどほんとはずっと結婚したかったーというなら、

劇の最後の最期にそれを言われても、客はぜんぜんついていけません。

だってその、状況を作り出したのは、女性自身の行動や願いが原因でもあるのに。
途中、ひとりで寂しいのにも耐えてた辺り、すごい偉いなーって感心できたんですが、あれがすべて虚勢だったってことになる。

「大丈夫なふりをしているけど、寂しい」のと、
「寂しいけど、大丈夫!と自分を奮い立たせている」のでは、

やっぱり違うだろーと思うのですよ。

彼女はいったい、どっちだったんだろうなあ…。

入り混じってて、最後はサビシイ方に傾いちゃったのかなあ。

すんげー細かいんですが、こういうものすごく個人的とも言える感覚的な部分で、ちょこちょこと訝しんじゃうところがあって、

つまらなかったわけではないんだけど、いまいちだなーという感想になってしまいました。

関さん演出ってことで、いろいろ楽しみにしていたのは、演出の仕方にそのひとの人間性がけっこう出るからです。

こう見せたい、こう思わせたい感じさせたい考えさせたい、と観客の視点や思考を左右することができるから。

まあ私は演劇に携わっている人間じゃないし、評論家でもないのですが、自分にとって面白いか面白くないかぐらいはわかりますからね。

で、思ったのは、関さんはまだまだ演出を勉強中でいらっしゃるんじゃないかなってこと。
あと、こういうのは得意不得意もあるし。回数重ねて馴れてかなきゃだし。

今回の演出の仕方は、すんごいストレートだったと思います。ストレートすぎて、面白くなかった。

いい話を、いい話に。泣ける台詞を、泣ける台詞に読むのは当たり前で(それだけでもすんげー難しいけど)、それらに肉付けする演出は、たとえば「笑い」を「苦笑」に変えたり、皮肉ったものにしたり、
苦悩しているのを滑稽に見せたりする、ある種の生々しさを加えることでもあるのじゃないかな。
普通の会話っぽさというか。

しかし肉付けがあまりなく、リアルさが薄いままコメディタッチで進んで、突然、不倫や流産が出てきたので、なんだかそこだけちょっと浮いてました。

途中からシリアスになったわけでもなく、最後は「信じてたわー!」とか抱き合って、スネ毛生えた天使とか出てきて(笑)終わりでしたから、やっぱり不倫〜を取り扱ってたシーンは浮いてた気がします。
全体的なバランスも、ちょっと悪かったかな。

でも、素直な話運びなので、演劇を初めて観る子供なんかには、向いているでしょう。

長くなって疲れたー。
色々支離滅裂にもなっちゃって、偉そうなことも書いちゃいましたがさらりとお流しください。

関さんの演技と、実は始まりのあたり最後列に座ってらっしゃった関さんに遭遇した(!!)Mちんの話は次回ー。

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